ポゥ子の台湾ぞわぞわ記

台湾の都市伝説・心霊スポット・事件・怖い映画

映画「呪詛」は実在した?モチーフとなった高雄集団妄想事件とは?


2022年3月に公開された台湾ホラー映画『呪詛』。

興行収入は17億元に達し、日本でも話題になりましたよね。

この映画が、高雄市で実際に起きた「ある奇妙な事件」をもとにしていることをご存じでしょうか?

それはそれは、ただの心霊話では片付けられない、不気味な集団妄想事件でした。


本記事では、その事件の概要をわかりやすくご紹介していきます。

「あれは結局なんだったのか……」というポゥ子なりの考察も交えながら進めていきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

.事件の概要に触れる前に、まずは映画「呪詛」について大まかな内容をご紹介するわよ。
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映画「呪詛」の概要

映画呪詛

 

まず、作品の基本情報を整理しておきましょう。

 

原作のタイトル 咒 Incantation
公開日 2022年3月18日(台湾)
ネットフリックスでの配信日 2022年7月8日
監督・脚本 柯孟融
主演 ・蔡亘晏(李若男)
・黃歆庭(朵朵)
・高英軒(謝啟明)
・林敬倫(阿東)
・溫慶禹(阿東)

あらすじ

主人公のシングルマザー、李若男は、かつて仲間たちと超常スポットを巡るYouTuberだった。

しかし、6年前に山奥の「陳家莊」「絶対に入ってはいけない地下道」に足を踏み入れてしまい、そこで封じられていた邪神を目覚めさせてしまう。

この出来事をきっかけに、彼女は精神的に大きなダメージを受けてしまう。

その後、若男は娘の朵朵(ドゥオドゥオ)を出産しますが、自身の療養のため、長い間施設に預けることに。

やがて回復した彼女は、ようやく娘を引き取り、新しい生活をスタートさせる。

ところがその矢先、身の回りで不可解な出来事が次々と起こり始め、ついには朵朵の身にも異変が現れてしまいます。

若男は、この異変が6年前に犯した禁忌によるものだと気づきながらも、娘を救うために奔走する。

やがて彼女は「王爺廟」を訪れ、道士・阿清師に助けを求めるのだが、、、。

映画「呪詛」の特徴

「呪詛」は、6年前の出来事と現在が交錯しながら進む「モキュメンタリー(擬似ドキュメンタリー)」形式を採用しています。

あえてすべてを説明しきらず、観る人に解釈を委ねるような構成も、この作品の不気味さを引き立てています。

さらに特徴的なのが、全編を通して主人公・李若男の一人称視点で描かれる「ファウンド・フッテージ形式」です。

手持ちカメラによるブレや不自然な構図、乱れる音声などが、まるで実際に記録された映像のようなリアリティを生み出し、恐怖をより強く感じさせます。

この手法は、1999年公開の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」で広く知られるようになりました。

なお、監督の柯孟融はインタビューで、作中に登場する宗教設定はすべて架空のものであると語っています。

大黒仏母の像や護符の記号もすべて創作とのことですが、そのリアルさが逆に「本当に存在するのでは…」という不安をかき立てます。

ちなみに、物語の発端となる6年前に訪れた山奥の村は、撮影用に作られたセットではなく、実在する民宿「李崠山莊」が使われていました。

こうした細かいリアリティの積み重ねも、本作の怖さを支えているポイントと言えるでしょう。

 

画像:李崠山莊FaceBook

「李崠山莊(李棟山莊)」は、台湾北部・新竹県尖石郷玉峰村、標高1,914mの李棟山の登山口近くに位置する山小屋風の民宿です。

その独特な外観から「台湾版ハウルの動く城」とも呼ばれ、登山客の間で知られる存在となっています。

もともとは登山者向けの宿泊施設として利用されていましたが、2018年11月に火災が発生。その後は修繕作業が進められてきたといわれています。

集団妄想事件(呉一家長女死亡事件)

映画『呪詛』は、集団妄想事件の出来事や要素が随所に取り入れられたオリジナルストーリーとなっています。

集団妄想事件(呉一家長女死亡事件)は、「高雄邪教命案」や「高雄一家中邪長女慘死」と呼ばれ、当時大きな話題となりました。

この事件は2005年、高雄市の鼓山区で発生しました。

登場人物は6人家族の呉一家。

家族は次第に「神に憑依された」と主張するようになり、異様な行動を取り始めます。

自宅内では、神の牌や松葉杖を使って互いに殴り合い、空腹時には「符水(護符を水に溶かしたり燃やした灰を混ぜたりした、祈祷に用いられる液体とされる)」と呼ばれるものを飲み、さらには排泄物を与え合うなど、常軌を逸した行為がエスカレートしていきました。

そして最終的には、長女に対する激しい暴力が続き、悲惨な死へとつながってしまいます。

 

呉一家の家族構成

父親」吳武運(56歳)
母親:蔡月卿(56歳)
長女:呉金女(台北で弁当やを営む)
妹:呉美紅(看護師)
末妹:呉美宜(北部の大学生)
弟:呉旺元(印刷工場に努めている)

 

.それでは、事件がどのようにエスカレートしていったのか、時系列に沿って見ていきましょう!.

事件の流れ

当時、56歳の夫妻はペンキ職人として生計を立てており、20代の子どもたちはすでに家を離れて生活していました。

呉一家はもともと信仰心が強く、自宅の居間には神棚が設けられ、「三太子(ナタ)」を祀っていたと報じられています。(ただし確証はありません)

台湾は信仰の自由が認められており、宗教的にも非常に多様な社会です。仏教や道教をベースとした伝統的な信仰だけでなく、一貫道や霊山派、新紀元といったさまざまな宗派が共存しています。

中でも三太子は台湾南部で広く信仰されており、魔除けや子どもの成長を守る神として知られています。

 

呉一家の自宅/画像:每日頭條

台湾は信仰の自由があり、多様性に富んでおり、さまざまな宗派が共存しています。

伝統的な仏教と道教が融合した思想から、一貫道、霊山派、新紀元などの複合的な宗教信仰まで、台湾ではいずれも非常に活発に発展しています

三太子は台湾南部で広く信仰されており、魔を払い、子どもの成長を守る神とされている。

そんな呉一家に異変が現れ始めたのは、2005年のことでした。

近隣住民の話によると、この頃から家の中で異常な出来事が起きるようになったといいます。

最初に「神に憑依された」とされたのは、末娘の呉美宜でした。

彼女は突然、「三太子に取り憑かれた」と言い出します。

そして2月末のある日、呉美宜は台北にいる長女へ電話をかけ、「すぐに帰ってこないと命が危ない。

神の言うことを聞かないと危険だ」と強く訴えました。

これを受けた両親は事態を軽視せず、すぐに台北へ向かい、長女を連れ戻します。

しかし、この帰宅をきっかけに、今度は長女にも異変が現れ始めました。彼女は「毎晩、はっきりとした夢の中で性的暴行を受ける。誰かが私を害そうとしている」と訴えるようになり、恐怖から昼間しか眠れない状態へと追い込まれていきます。

3月に入ると、事態はさらに大きく動き始めます。

ある日、長女は一本の電話を受けました。内容の詳細は明らかになっていませんが、その直後から彼女の様子は一変します。

それまでの不安定さを超えて、「自分は観世音菩薩だ」と名乗るようになり、人々の苦しみを救うためにこの世に現れたのだと語り始めました。

同時に、ほうきを手にして自分の身体を打ち続けるなど、常軌を逸した行動も見られるようになります。

異常な状況に追い詰められた家族は、長女を落ち着かせるため、台湾・新竹県にある五指山へと連れて行き、瞑想修行をさせることにしました。

 

五指山とは

都市伝説の舞台としても知られる場所で、内湖や汐止などにまたがる山岳地帯。その名の通り五本の指のような地形をしており、特に“中指”にあたる山道は陰気が強いとされる。
この一帯では「鬼打牆(同じ場所をぐるぐる回ってしまう現象)」や「抓交替(霊に連れて行かれる)」といった怪異譚が語られており、北部の山には魔神仔と呼ばれる精霊のような存在が棲みついているとも言われている。

画像:交通部觀光署


しかし、長女の症状は改善されませんでした。

それどころか、事態はさらに悪化したため、家族は長女を楠梓の神壇に連れて行き、お祓いを受けさせました。

神壇の法師はこの件について現在は語ることを避けていますが、近隣住民の証言によると、当時は呉家で法会が行われ、呉金女に取り憑いた“妖魔”を追い払う儀式が行われたとされています。

一方で、呉金女本人は「自分は観世音菩薩だ」と主張していたにもかかわらず、儀式の場では「妖魔」として扱われていた点に、大きな矛盾が見られます。

これには、「業障迴圈理論」と呼ばれる考え方が関係しています。

 

業障迴圈理論とは

すべての宗教的手段(祈祷、法会、供養、因縁解消など)を行っても、状況が改善しない場合、それは施術者の力不足ではなく、当人の業障が重すぎて神でも変えられないと解釈されること。
この考え方は、結果として責任の所在を曖昧にしやすく、「信仰が足りない」「業が深い」といった言葉で当事者を追い詰めてしまう危険性もある。

神壇の法師がその場を離れた後、事態はさらに混乱していきます。

家族全員が説明のつかない「憑依状態」に陥り、それぞれが別の存在を名乗り始めたのです。

父親は「人間の善悪を審査する最高神・玉皇大帝」、母親は「王母娘娘」を名乗り、子どもたちもまた、「玉皇大帝と王母娘娘の七人の娘・七仙女」や、「臨済宗の高僧・済公」など、それぞれが異なる存在を自称し始めました。

家の中の異常は、さらに目に見える形で進行していきます。

窓や部屋中の壁には無数のお札がびっしりと貼られ、それらは6人全員がそれぞれ描いた「邪気を祓うためのもの」でした。

塩や米が家のあちこちに撒かれ、紙銭が絶えず燃やされるようになります。

やがて、日常的に奇声や泣き声、そして突然の笑い声が響くようになり、この頃から家族による除霊行為は急速にエスカレートしていったとされています。

さらに、黒は「陰気を吸収する色」と信じられていたため、家族全員が黒い服だけを着るようになりました。

 

呉一家の窓にかけられた黒い衣服/画像:每日頭條


奇行はそれだけにとどまらず、各々が自傷行為を行ったり、神主牌(戒名や法名を記した位牌)を握りしめ、杖や棍棒で互いを殴り合うようになります。

火のついた線香を相手の身体に押し当てたり、熱湯を浴びせて火傷を負わせたりするなど、それらすべてが“邪気祓い”の一環として行われていました。

さらに断食も強要され、空腹時には「符水(護符を水に溶かしたり燃やした灰を混ぜたりした、祈祷に用いられる液体とされる)」を飲み、排泄物を与え合うという異常な行為まで行われるようになります。

こうした中で、家族の中でも特に標的とされたのが長女の呉金女でした。

最初に異常を示した人物であったことから、家族全員が「長女に最も重い業がある」と信じており、「邪魔に取り憑かれている」と判断されていたためです。

その結果、長女は極度の飢餓と栄養失調の状態に加え、大量の排泄物を摂取させられるという過酷な状況に置かれ、サルモネラ菌による重篤な感染症などを引き起こし、約1か月にわたり激しい苦痛を受け続けていたとみられています。

やがて6人が住む階からは、絶え間ない叫び声や、何かが激しくぶつかり合うような音が響くようになります。

この異様な状況に恐怖を覚えた近隣住民の一部は、しばらくの間、宿泊施設などへ避難せざるを得なかったといわれています。

4月11日、呉家の異変はついに外部へと露見することになります。

普段ほとんど近所付き合いのない住民のもとへ、呉家の人物が慌てた様子で訪れ、「救急車を呼んでほしい」とだけ告げると、そのまま急いで立ち去りました。

不審に思った住民が呉家を訪ねたところ、28歳の長女・呉金女が口から泡を吹き、まったく動かない状態で部屋に横たわっているのを発見します。住民はすぐに119へ通報しましたが、すでに手遅れの状態でした。

 

病院に搬送される長女/画像:每日頭條

彼女は集中治療室に搬送されたものの、肝不全・代謝不全、さらに細菌感染による脳炎などが重なり、最終的には神経性ショックによる死亡が確認されました。

また、長女の身体には多数の青あざが確認されており、その不自然さから病院側は警察へ通報。ここから、この奇怪な事件が明るみに出ることとなりました。

警察は医師や遺体を発見した隣人から事情聴取を行い、家族に対して重大な疑いがあると判断されます。

しかし、警察が呉家に到着した時点で、家族はすでに各地へと逃れており、遺体の引き取りにも現れませんでした。

事件から数日後、父親を含む5人がようやく姿を現し、供述を行います。

しかし彼らは「死んだのは長女ではなく、取り憑いていた邪霊である」「身体から霊魂が一時的に抜けただけだ」と説明し、死亡そのものを現実として受け入れていない様子でした。

その後の司法解剖により、死亡してからすでに2日が経過していたことが判明します。

さらに後の供述では、長女がベッドの上で口から泡を吹いているのを家族が発見し、手足はすでに冷たく、呼吸も停止していたとされています。

その際、看護師である次女が数回にわたり心肺蘇生を試みましたが、そのまま放置されてしまったことが明らかになりました。

しかし、医療評価の結果、5人の家族に精神疾患は認められないと判断され、検察は遺棄致死罪での起訴に踏み切ります。

しかし裁判所は、呉金女の死は、長期間にわたり食事がほとんど取られていなかったことによる臓器不全であり、外部からの直接的な暴力とは因果関係が認められないとして、最終的に5人を無罪とする判断を下しました。

ポゥ子の考察

この事件はあまりにも異様であったため、当時から原因についてさまざまな議論がなされてきました。

なぜここまで悲惨な出来事が起きてしまったのか、ポゥ子なりに整理してみると、いくつかの要因が複雑に重なっていたのではないかと考えられます。

集団ヒステリー

最初に起きた長女の異常行動を、家族全員が「霊的な現象」として解釈したことで、同じ世界観に一気に巻き込まれていった可能性があります。

さらに閉鎖的な環境だったことで、現実からの修正が効きにくく、認識がどんどんエスカレートしていったとも考えられます。

誤った宗教的信念

民間信仰への強い依存があり、本来であれば医療的に対応すべき状態に対しても、線香・符・暴力といった“除霊行為”が正当化されてしまいました。

結果として、カルト的・あるいは洗脳に近い状態に陥っていた可能性があります。

スケープゴート化

家族全員が不安や恐怖を抱える中で、その対象を長女に集中させることで精神的な安定を保とうとした側面も考えられます。

本来は守るべき存在であるはずの家族が、「問題の原因」として扱われ、攻撃の対象へと変化していったことが悲劇を加速させました。

外部からの遮断

異常な行動が見られていたにもかかわらず、医療機関への相談が十分になされず、外部との接点が極めて限られていました。

もし途中で一人でも冷静な判断が介入していれば、結果は違っていた可能性があります。


ただ、宗教や多様な信仰が共存する台湾社会においては、「医療」と「信仰」のバランスは非常に難しい問題でもあります。

信仰は人の心の支えになる一方で、判断をすべて委ねてしまうと、命に関わる選択を誤る危険性もあります。

例えば、眠れない・体調が悪いと感じたとき、病院へ行くのか、それとも寺や廟へ相談するのかは人それぞれです。

『呪詛』の中でも、李若男は娘・朵朵の異変に対して医療と信仰の両方にすがる姿を見せており、この“揺れ”は台湾における現実の信仰構造とも重なって見えます。

さらに、この事件の医学鑑定では「家族に明確な精神疾患は確認されなかった」とされています。

つまり、特別な異常を持った人間だけが起こした事件ではなく、ごく普通の人でも同じ状況に置かれれば起こり得るという点が、最も恐ろしい部分かもしれません。

 

 

映画「呪詛」は、高雄市で起きた事件をそのまま映画化したものではなく、実在の出来事や要素を随所に取り入れながら構築されたオリジナル・ストーリーです。

そして本作の反響を受け、2022年4月30日には監督の柯孟融が続編の企画・制作が正式に進行中であることを公表しました。

すでに撮影も開始されており、正式ポスターも公開されています。タイトルは「咒2」と発表されました。

本作では、朵朵役を演じた子役・黄歆庭の視点を軸に物語が展開される予定で、従来とは異なる構造や発想を取り入れながら、「呪詛」の世界観を引き継いでいくとされています。

 

.今から楽しみ!
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