
日本と台湾は地理的にも近く、文化的な共通点もたくさんありますが、お葬式の形には意外と大きな違いがあります。
台湾では、儒教や仏教、道教の影響を受けた独特の風習が今も息づいており、ときには「こんなに賑やかなんだ」と驚くこともあるかもしれません。
今日は、台湾ならではのお葬式ルールや参列時のマナーについてご紹介します。
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台湾ならではのお葬式ルール
台湾のお葬式は、漢民族の仏教・道教・儒教といった伝統的な礼儀文化の影響を色濃く受けており、日本とはまた違った雰囲気があります。
また、家庭の考え方、経済状況、住んでいる地域などによっても、形式や規模は大きく異なります。
特に昔は、形式が複雑でしたが、ここ最近では、時代の流れとともに少しずつ簡略化されつつあります。
現在の台湾では、一般的に伝統を大切にしつつも、現実的な事情に合わせて柔軟に行われているケースが増えています。
台湾のお葬式には、日本とは大きく異なるこんなルールが存在します。
火葬されるまでの期間がとにかく長い

日本では、亡くなった翌日にお通夜、その翌日に告別式・火葬という流れをふみ、3〜5日ほどで一連の儀式が終わることが多いですよね。
一方、台湾では、亡くなってから出棺・火葬まで、平均で10〜15日ほどかかるのが一般的です。場合によっては、出棺・火葬まで3週間から1か月ほどになることもあります。
葬儀の流れは、大まかに以下の過程に分かれます。
臨終ケア(病院での看取りor自宅での看取り)
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ご遺体の搬送(葬儀場または自宅など)
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葬儀全体の調整(死亡届提出、告別式・火葬日程など)
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お通夜(守靈)
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納棺(入殮)
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告別式
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出棺・火葬・収骨
台湾では、納骨や埋葬の日を「良い日(吉日)」に合わせることを非常に重視します。
そのため、日取りの都合で日数が延びることも珍しくありません。
また、都市部では葬儀場や火葬場の予約が取りづらく、結果として期間が長くなるケースもあります。
特に特徴的なのが、お通夜にあたる「守靈」の期間です。
この期間はとても長く、親族が弔問客の対応を続けながら、お坊さんとともに読経や供養を行います。
ただ、最近では簡略化が進んでいるため、「做七(ぞうちー)」と呼ばれる供養に絞る家庭も増えています。
亡くなってから49日まで、7日ごとに読経や供物を行う形式
ここで心配なのが、ご遺体の状態ですが、ご遺体は火葬までの間、葬儀場の霊安室に安置されるか、冷蔵機能付きの棺に納められるため心配ありません。
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告別式が賑やか
最近では、都市部を中心に「殯儀館(ビンイーグァン)」と呼ばれる専用の斎場で葬儀を執り行うケースが増えています。
その一方で、自宅の敷地内や公道にブルーシートで簡易的な式場を作り、告別式を行うスタイルも、特に南部ではまだよく見られます。
式場を飾る花は、日本と同じく白い花が中心です。
ただし、80歳を過ぎた方など、大往生とされる場合は、「悲しみ」よりも「人生を全うしたことを祝う」という意味合いが強くなり、赤やピンクの花があしらわれることもあります。
また、台湾では葬儀を盛大に行うことが、故人への感謝や敬意を示す行為とされていると同時に、賑やかにすることで遺族の悲しみを少しでも和らげるという意味合いもあります。
そのため、告別式の会場では、故人が無事に冥土へ旅立てるよう願う歌や演舞が行われることもあります。
中には、ミニスカート姿の女性たちによるマーチングバンドが、アップテンポな音楽で場を盛り上げるケースもあります。
さらに、出棺の際には派手に装飾されたトラックの荷台で演奏やダンスが披露され、パレードのような状態で火葬場へ向かうこともあります。
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泣く人を雇う文化もある

台湾には、「哭喪人(クサンレン)」と呼ばれる、遺族の代わりに泣いて悲しみを表現する人を雇う文化もあります。
哭喪人は、故人がどれだけ愛されていたかを大きな声で語りながら泣き、葬儀全体の雰囲気をより厳粛なものにします。
以前は、哭喪要員の需要は確かに高かったようですが、葬儀の形が簡略化されるとともに、哭喪の需要はすっかり減少しています。
しかし最近、台中のある葬儀業者が哭喪人を募集し、勤務時間2.5時間で時給2,000台湾ドルという好条件だったことが話題になりました。
それだけ専門性が求められる仕事だともいえます。
以前は土葬が主流だった

台湾の山間部や傾斜地に、半円形の大きなお墓を見かけたことはありませんか。
コンクリートむき出しのものや、レンガ造り、タイル張りのものなど、デザインや大きさ、向きもさまざまで、これらの多くが土葬によるお墓です。
日本統治時代以前の台湾では土葬が主流でした。
しかし、マラリアなどの感染症対策として火葬が導入されたことをきっかけに、徐々に火葬が浸透し、現在では9割以上が火葬となっています。
墓地不足の問題も深刻化しており、近年では環境に配慮した樹木葬や散骨などの自然葬も取り入れられるようになっています。
ただ、台湾には、土葬後8年ほど経ったタイミングで、風水師が選んだ吉日に遺骨を掘り起こし、骨をきれいに洗って再び埋葬する「洗骨」という風習が今も残っています。
二度埋葬することで、子孫に幸福や豊穣をもたらすと信じられているのです。
伝統的な土葬文化を背景に持ちながらも、時代とともに形を変えてきたのが、台湾のお葬式事情なのです。
台湾のお葬式で気を付けたいこと
お葬式に参列する際、日本でも細かなマナーがありますが、台湾でも同じように、気を付けるべきことがあります。
台湾の場合は仏教・道教・キリスト教などさまざまな宗教が共存しており、さらに民族や地域ごとの習慣もあるため、マナーが一律ではないという特徴があります。
そのため「これが絶対」ということはありませんが、最低限知っておきたい一般的なルールがあります。
ここでは、台湾のお葬式に参列する際に覚えておいて損はない基本的なポイントをご紹介します。
国が違えど、一番大切なのは故人とご遺族への配慮よね。
お葬式の服装について

台湾では伝統的な「披麻戴孝(ピーマーダイシャオ)」という風習がありますが、現代ではかなり簡略化が進んでいます。
麻で作られた白い帽子や衣服を身に着けて喪に服す風習
台湾南部を中心に、現在もこの習慣が残る地域がある
ただし、現代ではかなりお葬式の簡略化が進んでいるため、遺族であっても黒いスーツや黒いガウンを羽織るだけというケースも増えています。
参列者の服装については、日本のように「完全に黒でなければならない」というほど厳格ではありません。
基本的には、濃色や地味な色味の服装であれば問題ありません。
男性であれば、濃い色のスーツに無地のネクタイ、女性の場合は濃色のセットアップやワンピースなど、落ち着いた装いが安心です。
派手なアクセサリーや大ぶりの装飾品、鮮やかな口紅などは避けたほうがよいでしょう。
大切なのは、場の空気に合わせ、故人とご遺族に敬意を示す姿勢なのです。
香典の金額は奇数にする

台湾では、「白包(バイバオ)」と呼ばれる白い封筒に入れて香典を渡します。
(お祝いごとの際に使う赤い封筒「紅包(ホンバオ)」とは対になる存在です。)
金額、百の位を基準に奇数(単数)にするのが一般的で、1,100元、1,500元、2,100元、3,100元といった金額がよく用いられます。
偶数は中国語で「双(つがい)」を連想させ、おめでたい意味合いを持つため、お祝い事では偶数が好まれますが、お葬式では逆に避けるのが習わしです。
ただし数字の「9」は不吉とされるため、弔事では避けられる傾向があります。
あくまで目安ですが、関係性の深さによって調整するのが一般的です。
・職場関係者のご家族の場合:1,100元または2,100元
・親族の場合:3,000〜5,000元程度
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告別式から直帰してはいけない
台湾では、告別式のあとにそのまま家へ直帰するのはよくない事とされています。
これは、人の気や神様の力で「穢れ」を落とす、という考え方です。
不浄を家に持ち帰らないために、告別式のあとすぐに帰宅せず、人の多い場所や廟(お寺や廟)に立ち寄ってから帰るのが一般的です。
帰宅後には、陰陽水(お湯と水を半分ずつ混ぜたもの)で全身を拭くとよいとも言われています。
ほかにも、粗塩や柚子の葉、清め符の灰を入れた水で手や顔を洗う方法もあります。
また、式が終わった際に遺族や知人へ「さよなら」と言うのは縁起が悪いと考えられています。「さよなら」にあたる中国語は「再見(ザイジェン)」で、「また会いましょう」という意味が強い言葉です。
これが「近いうちにまた葬式で会う」という連想につながるため、避けられるのです。
そのため、軽く会釈をしたり、「お疲れさまでした」に近い柔らかい表現で場を離れるのが無難です。
台湾では今もこうした風習を大切にしている方が多く、特に年配の世代では意識されることが多いです。
喪中にしてはいけないこと
台湾では、喪に服す期間はおよそ100日とされています。
これは「子どもは生まれてから三年間、親に守られて育つのだから、親が亡くなった後も三年間かけて養育の恩に報いるべきだ」という儒教の考え方が背景にあります。
服喪期間中は質素な生活を送りながら、故人への感謝と哀悼の気持ちを表す風習が大切にされてきました。
しかし、現代では葬儀の簡素化が進んでいることもあり、喪中の期間も以前より短くなっています。
・ひげを剃らない、髪を切らない、華美な服を着ない
「身体も髪も皮膚もすべて父母から授かったもの。それを傷つけないことが孝行の第一歩」という孝道の精神を表している
・精進料理を心がける
肉食を避けることで、徳を積み、故人の安息を祈るという意味がある
・酸味や苦味の強いものを控える
とくに苦瓜など強い苦味の食材は、家運が苦しくなる象徴とされる
・寺院に参拝しない、神仏を拝まない
喪事は「不浄」と考えられ、穢れが神様に及ぶのを避けるため。
自宅で神仏や祖先を祀っている場合は、赤い布や紙で祭壇を覆う「遮神」を行う
・他人を訪ねない、慶事に参加しない
喪中の人は穢れを帯びている可能性があるとされ、それを他に持ち込まないため。
結婚式は一周忌(對年)を過ぎてから行うのが一般的
・年中行事や正月を質素に過ごす
旧正月でも赤い春聯(お飾り)を貼らず、年越しの食事も簡素に済ませる
・訪れてきた小動物を追い払わない
蛾や蝶、小鳥などが家に入ってきた場合、故人の魂が様子を見に来たと考えられるため
台湾のお葬式が垣間見れる映画
ここまで、台湾のお葬式についてご紹介してきましたが、文章だけではなかなかイメージしづらいかもしれません。
そんなときは、映画を通して見るのもひとつの方法です。
ここでは、台湾の葬送文化が垣間見られる2作品をご紹介します。
父の初七日(父後七日)
台湾中部の田舎町を舞台に、突然亡くなった父を7日間かけて送り出す家族の物語です。
道教式の伝統葬儀は、哭喪人やマーチンバンドが登場し大騒ぎするお葬式を見ることができます。
笑いと混乱の奥に、家族の絆と切なさがじんわりと胸に残る一本です。

呪葬
こちらは、死者の魂が戻るといわれる「初七日」の風習を題材にした台湾ホラー映画です。
祖父の葬儀で実家に戻った母娘が、冷え切った家族関係と不気味な怪異に追い詰められていきます。
台湾の葬送文化と民間信仰がリアルに描かれていて、風習の意味を知っているとよりゾクッと楽しめる作品です。

台湾のお葬式は、日本と比べると驚くことも多いですが、そのどれもが故人を思う気持ちから生まれたものです。
もし台湾で参列する機会があれば、少しだけ思い出していただけたらうれしいです。

